似合わない洋服は捨てました

気まぐれに気の向くままに

18の夏

昔の恋を懐かしく思うのは

今の自分がしあわせだからこそ

もう忘れて

by ユーミン

 

彼と知り合ったのは、18の夏

 

車高ををぎりぎりまで落として

重低音を響かせて走ってた男の子

 

友達から紹介された彼は

つぶらな瞳と屈託のない笑顔が可愛い子だった

次に会う約束はいつも向こうから

助手席に乗っていつも埠頭に車を止めて夜景を見たり花火をしたり、

真夜中に職質をかけられて夫婦のふりをしたり

20歳までには落ち着かなくちゃなって

背伸びして語り合った夜

ただただ一緒にいる事が嬉しくて楽しかった

 

彼と過ごす夜はたいてい車の中で

他愛もない話をしながら時々キスをして

気がついたら朝になってるような

そんな幼い子供のような恋

 

 

その日はわたしの免許公布日で

いつもは彼が迎えに来てくれたのに

彼の家まで行くことになった

親父の車を盗んで 

初めて教官を横に乗せずに走った

ひたすら40kmで

 

 

 

朝、親父の出社時刻に車を戻すように企んでいたのに間に合わず

玄関で顔面を殴られ、その奥で狂ったように叫んでいた母親が怖くて

バイクの鍵をとっさに掴んで逃げた

 

そのまま家出して

友達の所に転がり込んだ事を良く思わなかった彼は

家に帰るように説得してくれた

 

馬鹿なことをするなと諭してくれた

 

(そもそも俺んちに来いと言ったのは彼だったのだ。今考えると)

 

1ヵ月後家に戻った事を知らせに行くと

会ってはくれなかった

「電話して」短く書いた手紙を車のワイパーに挟んでみたけど

電話が来る事はなかった

 

泣いた。死ぬほど泣いた。

こんな事なら血が繋がっていれば良かったのにと

そうしたら別れる事もなく

会えないなんて事もないのにと

友達の部屋で泣いた。

 

どれだけ好きだったか初めて知った

 

笑顔も煙草を吸う横顔も

少し照れながら髪をかきあげる

そんな小さな仕草も

つけてた香水も

全部好きだった。

 

その後

彼が幼馴染と結婚したと知ったのは

死ぬほど泣いた日から一年くらい経った日だった。

 

幸せに。と

心の中で思えるほどには気持ちも整理されていた

 

 

今もまだ横顔を覚えてる

頬の小さなキズも覚えてる

 

 

思い出した。

一度だけ、彼から電話があった

何ヶ月経った頃だろう

 

「元気か?」

「うん。元気」

「そっか、良かった」

「うん。」

「仕事ちゃんとしてるのか?」

「ちゃんと仕事してるよ」

「そっか」

「うん」

 

 

 

「じゃあ、元気でな」

 

 

「うん。ありがとう。元気でね」